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この記事の結論
- 外国株の相続税評価は、日本の上場株式と同じ考え方(死亡日の終値、または直前3か月の月平均終値のうち最も低い価額)で行われます
- 違うのは円換算です。TTB(対顧客直物電信買相場)・死亡日のレートを使うため、株価が同じでも評価額は変わります
- 手続きは相続人の口座への現物移管が原則で、相続人がその証券会社に口座を持っている必要があります
- 米国株・米国上場ETFを持っている場合は、米国の遺産税という別の論点が加わります
欧州株を長く保有している人にとって、避けて通れないのに、調べても情報がほとんど出てこない論点があります。それが相続です。証券会社のサイトには一般的な相続手続きの案内がありますが、「外国株を持ったまま亡くなった場合」を正面から扱った日本語の説明は、あまり見当たりません。
先にお断りしておくと、この記事は具体的な税額を計算する記事ではありません。相続税は他の相続財産との合算や各種控除の適用で個別性が非常に高く、この記事だけで正確な税額を算出することはできないからです。ここでは「何が論点になるか」を整理し、税理士に相談するときに何を聞けばいいかが分かる状態を目指します。
評価の考え方は、日本の上場株式と同じ
外国株式であっても、日本の相続税の計算上は原則として、日本の上場株式と同じ考え方で評価されます(出典:国税庁 質疑応答事例「外国の証券取引所に上場されている株式の評価」)。具体的には、①課税時期(=被相続人が亡くなった日)の最終価格、②その価格が課税時期の属する月以前3か月の各月の月平均終値のうち最も低い価額を超える場合は、その最も低い価額、のいずれか低い方で評価します。
なお、非上場の外国株式は評価方法が異なり、純資産価額方式で評価し、類似業種比準方式は使えません。当サイトで扱っている個別株・ETFは基本的に上場銘柄なので、この記事では上場株式の評価を前提に進めます。
違うのは円換算。TTB・死亡日のレートを使う
日本円で保有する上場株式と外国株式との決定的な違いが、円換算です。国税庁の外貨建て財産の評価の考え方によると、外貨建て資産は原則として、納税義務者の取引金融機関が公表するTTB(対顧客直物電信買相場)、またはこれに準ずる相場で円に換算します。換算する日は被相続人が亡くなった日の相場です。死亡日が土日・祝日で相場が立たない場合は、その日より前の最も近い日の相場を使います。
為替レートにはTTB・TTM・TTSの3種類があり、TTB<TTM<TTSの関係にあります。TTBは金融機関が顧客から外貨を買い取るときのレートで、3つの中では最も低い水準です。つまり、現地通貨建ての株価が同じでも、死亡日のTTBレート次第で円換算後の評価額は変わるということです。この点は、外国株ならではの論点として押さえておく価値があると思います。
手続きは「相続人の口座への現物移管」が原則
証券会社の相続手続き案内(マネックス証券、野村證券など)を確認すると、流れはおおむね共通しています。
- 死亡を証券会社に連絡し、口座を凍結する
- 相続届、遺産分割協議書、被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)、相続人の戸籍謄本、印鑑登録証明書などを提出する
- 審査後、通常1〜2か月程度で相続人名義の口座へ移管される
ここで重要なのは、株式は現物のまま相続人の口座へ移管されるのが原則という点です。移管の時点で売却する必要はなく、売却するかどうかは移管後に相続人が判断します。裏を返せば、相続人がその証券会社に口座を持っていないと、移管先がないため手続きが進まないということです。まだ口座を持っていない相続人がいる場合は、相続の手続きの中で新たに口座を開設する必要が出てきます。
当サイトで欧州の個別株の入り口として紹介しているサクソバンク証券について、公式の相続手続きの案内を確認しようとしましたが、当サイトでは確認できませんでした。推測で補うことはせず、正直に「確認できなかった」とお伝えします。同社で欧州の個別株を保有する予定がある方、またはすでに保有している方は、口座開設の前、あるいは保有中に、サクソバンク証券へ直接お問い合わせいただくことをおすすめします。
見落としがちな論点:米国株を持っている人は「米国の遺産税」も
ここまでは日本の相続税の話でした。もう一つ、見落とされがちな論点があります。米国は、米国市民でない非居住者が亡くなった場合も、米国にある資産に遺産税(Estate Tax)を課します。米国の法律で設立された会社の株式は、日本の証券会社を通じて持っていても対象です。米国にある資産が6万ドルを超えると、Form 706-NAによる申告が必要になり、期限は死亡日から9か月以内です(出典:IRS)。差し引ける税額(unified credit)は原則1万3,000ドルですが、日本との相続税条約には、この控除を米国内の資産の割合に応じて広げる規定があると、Form 706-NAの説明書(2025年版)に記載されています。具体的な税額は、条約の適用を含めて専門家にご確認ください。
欧州株そのものには、この「外国人への遺産税」の話は前面に出てきません。しかし、当サイトが欧州ETFの比較記事で紹介している商品の多くは、実は米国上場のETFです。米国籍のETFは、上の「米国にある資産」に当たる可能性があります(個々の商品の扱いは、当サイトでは確認できていません)。こうしたETFをお持ちの方は、米国の遺産税という論点もあわせて確認しておくと安心です。
米国以外の欧州各国にも、独自の相続課税があるとされています。税理士事務所の解説をもとにした目安を以下にまとめますが、いずれも「とされる」水準であり、断定はできません。
| 国 | 最高税率とされる値 | 備考 |
|---|---|---|
| フランス | 45% | 直系子孫の控除10万ユーロ、配偶者は非課税とされる |
| ドイツ | 30% | 7〜30%の累進とされる |
| イギリス | 40% | 非課税枠32万5,000ポンド(英国政府サイトで確認) |
| スイス | — | 相続税がない国として言及されるが、当サイトでは詳細を確認できなかった |
日本が相続税(遺産税)の条約を結んでいることを当サイトで確認できたのは、米国だけです(IRSの条約一覧)。財務省の租税条約の一覧にあるフランス・イギリス・ドイツ・スイスとの条約は所得税などの条約で、相続税の条約があるかは当サイトでは確認できていません。【訂正】以前の版で「フランス・イギリスとも相続税条約がある」と書いていましたが、根拠を確認できなかったため訂正しました(2026年10月2日)。また日本の原則として、被相続人または相続人のいずれかが相続発生日前10年以内に日本に住所を有していた場合、海外にある資産にも日本の相続税がかかるとされています。長期間にわたって海外に居住している場合を除き、多くの方はこの原則の対象になると考えられます。
現地で相続税に相当する税を課された場合、日本の相続税額から控除できる仕組みもあります(相続税法第20条の2の外国税額控除)。控除限度額は、外国税額と「日本の相続税額×国外財産の価額÷取得財産全体の価額」のいずれか少ない額です。なお、外国で納めた税額を円換算する際は、納付すべき日のTTSを使うことになっており、評価のときに使うTTBとは異なるレートになる点に注意が必要です。二重課税をそのまま放置する仕組みではない、という点は知っておいてよいと思います。
相続した外国株を売るとき:相続税の一部を取得費に足せる特例
移管された外国株を相続人が売ると、売却益には所得税(譲渡所得)がかかります。このとき、相続税を納めた人が、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売った場合は、納めた相続税のうち一定額を取得費に足せる特例があります(国税庁 タックスアンサーNo.3267)。株式も対象で、相続した株と同じ銘柄を前から持っていた場合は、一部を売っても相続した株を売ったものとして扱ってよいとされています。
適用には、確定申告で「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を出す必要があります。相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内なので(タックスアンサーNo.4205)、売却のタイミングは、亡くなってからおおむね3年10か月以内が一つの目安になります。売る時期を決める前に、税理士へ一度ご相談いただくと安心です。
まとめ:論点は整理できても、税額は税理士に確認を
- 外国株の評価は、日本の上場株式と同じ考え方(死亡日の終値、または直前3か月の月平均終値の最も低い価額)で行われる
- 円換算はTTB・死亡日のレートを使う。株価が同じでも、換算レート次第で評価額は変わる
- 手続きは相続人の口座への現物移管が原則。相続人がその証券会社に口座を持っている必要がある
- サクソバンク証券の相続手続きは当サイトで確認できていないため、直接の確認をおすすめする
- 米国株・米国上場ETFを持っている場合は、米国の遺産税という別の論点が加わる
- 各国の税率・控除額はいずれも「とされる」水準の情報であり、具体的な税額は必ず税理士にご確認ください
税額の話は税理士にお任せするしかありませんが、一つだけ、筆者が大事だと思っていることがあります。どこの証券会社にどんな資産があるかを、ご家族が分かる形にしておくことです。外国株は、残された側にとっては存在に気づくことすら難しい資産です。評価や手続きの話より先に、口座の一覧を紙で残しておくだけでも、ずいぶん違うと思います。
この記事でできるのは、論点を整理するところまでです。実際にどのくらいの税額になるか、どの控除が使えるかは、保有資産の全体像によって変わります。気になる点が見つかったら、その部分だけでも税理士に相談してみることをおすすめします。
この記事で気になった銘柄が実際に取引できるかを、口座の画面で確かめられます。
欧州株1,800銘柄以上・9取引所に対応。特定口座あり、NISAは対象外です。最低手数料が効くため、少額の買付では負担率が上がります。
この記事の検証方法
- 上場株式の評価方法は、国税庁 質疑応答事例「外国の証券取引所に上場されている株式の評価」(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/14/01.htm)を、2026年10月2日に確認しました(以前の版では非上場株の質疑応答のページを誤って挙げていました)
- 外貨建て資産の円換算(TTB・換算日)は、国税庁の外貨建て財産の評価に関するページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4665.htm)を出典としています
- 相続手続きの実務の流れは、マネックス証券・野村證券の相続手続き案内ページを出典としています
- 外国税額控除は相続税法第20条の2(https://www.zeiken.co.jp/hourei/HHSOU000000/20-2.html)を出典としています
- 米国の遺産税は、IRS「Some nonresidents with U.S. assets must file estate tax returns」とForm 706-NAの説明書(2025年版)、相続税の条約の相手国はIRSの「Estate & gift tax treaties (international)」で、2026年10月2日に確認しました
- 相続財産を売った場合の取得費の特例は、国税庁 タックスアンサーNo.3267(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm)で確認しました
- イギリスの相続税(税率40%・非課税枠32万5,000ポンド)は、英国政府のサイト(GOV.UK「How Inheritance Tax works」)で2026年10月2日に確認しました。フランス・ドイツ・スイスは税理士事務所の解説記事を出典としており、一次資料には当たれていないため「とされる」という表現にしています
- サクソバンク証券の相続手続き、米国以外の国と日本の相続税条約の有無は、当サイトでは確認できませんでした
- 本記事は税務の一般的な論点整理を目的としたものであり、税理士による個別の税務相談に代わるものではありません
この記事を書いた人:Kawa
ポルトガル在住30代の兼業投資家です。インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座で、欧州株ETFを中心に保有しています。ヨーロッパには、日本ではあまり知られていなくても、世界中で愛されている会社がたくさんあります。その面白さと、日本からの買い方を、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思って書いています。株価の見通しは、根拠と計算式を示して書きます。確認できていないことはそう書き、誤りがあれば訂正の経緯を記事に残して直します。詳しいプロフィール
欧州の個別株を持つ場合の買い方は、ロシュやエルメスなど銘柄ごとの記事にまとめています。相続の評価の考え方は、持つ銘柄が決まってから照らし合わせていただけます。
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免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、税務上の助言や特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載の評価方法・税率・控除額等は本文記載の各出典にもとづいていますが、税制は改正される場合があり、個別の事情によって適用が異なります。具体的な税額の算定や申告については、必ず税理士等の専門家にご確認ください。当サイトは本記事の情報に基づく損失・不利益について一切の責任を負いません。

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