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この記事の結論
- ライツ・イシュー(株主割当増資)は、既存の株主に、持ち株数に応じて新株を買う権利を配る増資です。EUでは、現金で増資するときは既存の株主に優先して新株を割り当てるのが原則で、申込期間は14日以上と決まっています
- 株主の選択肢は、新株を買う・権利を売る・何もしないの3つです。何もしないと、権利が無価値で失効し、持ち株の価値が目減りすることがあります
- サクソバンク証券の取引約款では、期限までに指図がないとき、同社は権利を売却できる(義務ではない)とされ、売却されなければ権利は失効します
- 発行会社が日本の居住者を対象外にしている案件もあります。2025年のオーステッドの発表文は、日本を配布の対象外としていました
保有している欧州株の会社が、「株主割当による増資」を発表した。しばらくすると、口座に見慣れない「権利」が入っている。これは何なのか、何もしないとどうなるのか、と戸惑われた方もいらっしゃるかもしれません。
欧州では、会社が現金で資金を集めるとき、まず既存の株主に新株を買う権利を配る「ライツ・イシュー」がよく使われます。この記事では、EUとドイツの法令、2025年のオーステッドの実例、サクソバンク証券の取引約款で確認した内容を整理します。増資が株価にとって良いか悪いかを論じる記事ではありません。
ライツ・イシューとは:既存の株主が先に新株を買える
ライツ・イシューは、会社が新しい株を発行して資金を集めるときに、既存の株主へ、持ち株数に応じて新株を買う権利を配る方法です。新株の値段は、多くの場合、そのときの株価より低く設定されます。
EUでは、これが会社法の原則になっています。会社法の指令(2017/1132)第72条は、次のように定めています。
- 現金による増資では、新株を、既存の株主に持ち株の割合に応じて優先的に提供しなければならない
- 権利を使える期間は、公告の日または株主への書面の発送日から14日以上とする
- この優先権は、定款では制限・排除できない。制限・排除するには株主総会の決議が必要で、経営側は理由と発行価格の根拠を書いた報告書を総会に出す
- 新株をいったん銀行などが引き受け、株主に提供する形でも、優先権を排除したことにはならない
つまり、既存の株主の持ち分が知らないうちに薄まらないよう、「まず株主に声をかける」のが原則です。国ごとの細かい決まりは、各国の会社法で定められています。
ドイツの例:申込期間は2週間以上、権利を外すには4分の3の賛成
ドイツの株式法第186条は、この原則を次のように具体化しています。
- 株主は、請求すれば、持ち分に応じた新株の割当てを受けられる。申込期間は2週間以上
- 株主の権利を全部または一部外すには、増資の決議の中で決め、出席した資本の4分の3以上の賛成が必要
- 現金による増資が資本の20%以下で、発行価格が株価を大きく下回らない場合は、権利を外すことが特に認められる
このため、ドイツの会社でも、比較的小さな増資は、既存の株主に権利を配らずに機関投資家へ売る形で行われることがあります。ライツ・イシューになるのは、主に規模の大きい増資だと考えられます。フランスやオランダなど、ほかの国の会社法の細かい決まりは、当サイトでは確認できていません。
実例:2025年のオーステッドは、1株に権利15個を配った
デンマークの洋上風力大手オーステッドは、2025年に約600億デンマーク・クローネのライツ・イシューを行いました。同社の発表から、主な日程と条件をまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表 | 2025年9月15日(目論見書の公表と増資の開始) |
| 新株の数 | 9億81万6,600株 |
| 払込の価格 | 新株1株につき66.60デンマーク・クローネ |
| 権利の割当 | 既存の1株につき権利15個。権利7個で新株1株を買える |
| 権利付きの最終日 | 2025年9月16日(翌17日から権利落ち) |
| 権利の売買期間 | 2025年9月17日〜9月30日 |
| 申込期間 | 2025年9月19日〜10月2日 |
| 使われなかった権利 | 申込期間中に使われなかった権利は無価値で失効し、補償はない |
| 結果(10月6日発表) | 新株の約99.3%が既存の株主の権利で申し込まれた。デンマーク政府が約50.1%を引き受けた |
| 新株の上場 | 2025年10月10日(ナスダック・コペンハーゲン)の予定 |
たとえば、権利落ちの前にオーステッド株を100株持っていた株主を考えます。
- 配られる権利は、100株×15個=1,500個
- 権利7個で新株1株なので、買える新株は214株(使う権利は1,498個で、2個が余る)
- 払い込む金額は、214株×66.60クローネ=1万4,252.40クローネ
- 全部使うと、持ち株は100株から314株になる
発表の数字から計算すると、既存の株数は約4億2,038万株で、増資後は約13億2,120万株、約3.1倍になります。これは発表された新株の数と割当の比率から当サイトが計算したもので、会社が公表した増資後の株数とは照合できていません。余った権利や、使わない権利は、権利の売買期間中であれば市場で売ることができましたが、申込期間が終わると無価値になりました。
ライツ・イシューの権利や新株の扱いは、証券会社によって異なります。サクソバンク証券では、取引約款で扱いが定められています。欧州株を取引するなら、口座を開く前に確かめておけます。
欧州株1,800銘柄以上・9取引所に対応。特定口座あり、NISAは対象外です。個別の増資で新株を引き受けられるかは、案件ごとに異なります。
株主の選択肢は3つ。何もしないと、価値が目減りすることがある
権利を受け取った株主には、次の3つの選択肢があります。仮の数字で比べてみます。
- 株価は20ユーロ、既存の2株につき新株1株を14ユーロで買えるとします(1株につき権利1個、権利2個で新株1株)
- 増資後の株価は、理屈の上では(2株×20ユーロ+14ユーロ)÷3株=18ユーロになります
- 権利1個の理屈の上の価値は、(18ユーロ−14ユーロ)÷2=2ユーロです
| 選択肢 | 100株を持っていた場合 | 合計の価値 |
|---|---|---|
| 新株を買う | 50株を700ユーロで買い、150株×18ユーロ | 2,700ユーロ(払い込んだ700ユーロを含む) |
| 権利を売る | 100株×18ユーロ+権利100個×2ユーロ | 2,000ユーロ |
| 何もしない | 100株×18ユーロ。権利は失効 | 1,800ユーロ(200ユーロ減る) |
新株を買うか、権利を売れば、増資の前の2,000ユーロに見合う価値が保たれます。何もしないと、権利の分だけ価値が減ります。実際の株価は、権利落ちの後も市場で動くため、この計算どおりになるとは限りません。
サクソバンク証券ではどうなるか:約款に書かれていること
サクソバンク証券の取引約款(2024年1月9日から適用)の第18条には、ライツ・イシューについて次の定めがあります。
- ライツ・イシューがあると、お客様は、新株を買う機会を得るか、そのまま放置するか、認められていれば権利を売ることになる
- お客様が指図期限までに指図をしない場合、同社は独自の裁量で、失効の前に権利を売却する権利を持つ。ただし義務ではない。売却したときは、標準的な手数料を差し引いて口座に入金する
- 同社が売却しなかった場合や、権利が売れない種類の場合は、指図期限までに権利を使わない限り、権利は失効し、無価値になる
- 同社は、コーポレートアクションについてお客様に通知したり、指図を受けたりすることができるが、その義務を負うものではない
- コーポレートアクションに関する手数料や費用を請求することがある
ここで大事なのは、「必ず通知が来る」「必ず代わりに売ってくれる」とは約款に書かれていない点です。保有している会社のIRサイトや発表で、増資の予定を自分でも確かめておくと安心です。また、サクソバンク証券の「指図期限」が、会社の定めた申込期限とどれだけ離れているかは、当サイトでは確認できていません。
なお、国内のほかの証券会社には、外国株に新株予約権(ライツ・イシュー)が付与された場合、原則としてすべて売却処分とする例もあります(三菱UFJ eスマート証券の米国株のコーポレートアクションのページ)。扱いは証券会社ごとに異なります。
発行会社が、日本の居住者を対象外にしていることもある
もう1つの制約は、発行会社の側にあります。オーステッドの2025年9月15日の発表文には、この発表を米国・カナダ・オーストラリア・日本・南アフリカに向けて配布してはならない、という注意書きがありました。理由は、発表文には書かれていません。
そのため、権利が口座に入っても、日本に住む株主は新株を買う選択肢が使えず、権利の売却か失効しか残らないことがありえます。サクソバンク証券を通じて、オーステッドの新株を日本の居住者が引き受けられたかどうかは、当サイトでは確認できていません。
ここからは筆者の考えです。筆者はポルトガル在住で、IBKRの口座から欧州株ETFを中心に保有しています。ライツ・イシューは、配当や自社株買いと違い、株主の側に「期限までに選ぶ」ことを求める出来事です。何もしないことが、そのまま損になりうる点は、個別株を持つなら知っておきたいと思います。増資そのものが会社にとって良い判断かどうかは、案件ごとに異なり、当サイトでは評価していません。
当サイトで確認できていないこと
- 権利の売却益や、新株の取得価額など、日本での税金の扱い
- サクソバンク証券の指図期限が、会社の申込期限の何日前になるか
- サクソバンク証券を通じて、オーステッドなど個別の案件の新株を日本の居住者が引き受けられたか
- イギリス(EU外)やスイスの会社法の決まり
- ドイツ以外のEU加盟国の、申込期間や権利の排除の細かい決まり
まとめ
- ライツ・イシューは、既存の株主に持ち株数に応じて新株を買う権利を配る増資
- EUでは、現金による増資は既存の株主への優先的な割当てが原則で、申込期間は14日以上。ドイツは2週間以上
- 選択肢は買う・売る・何もしないの3つ。何もしないと権利が失効し、価値が目減りすることがある
- サクソバンク証券は、指図がなければ権利を売却できるが義務ではない。売られなければ失効する
- 発行会社が日本の居住者を対象外にしている案件もある。2025年のオーステッドの発表文は日本を配布の対象外としていた
ライツ・イシューの扱いを知ったうえで欧州株を持つなら、口座の種類と開設までの流れを先に見ておけます。
口座の種類と開設までの日数は当サイトの解説記事にまとめています。NISAは対象外です。
この記事の検証方法
- EUの決まりは、EUR-Lexに掲載の指令(EU)2017/1132の統合版(2022年8月12日時点。EUR-Lexで確認できた最新の統合版)第72条で、2026年9月22日に当サイトが確認しました。この指令を改正した指令(EU)2025/25は、第72条を改正していないことも確認しました
- ドイツは、連邦司法省の法令サイトの株式法(AktG)第186条で確認しました
- オーステッドの実例は、同社の会社発表2025年9月15日と2025年10月6日で確認しました。100株の例と増資後の株数は、発表の数字から当サイトが計算したものです
- サクソバンク証券の扱いは、同社の取引約款(2024年1月9日から適用)第18条で確認しました
- ほかの証券会社の例は、三菱UFJ eスマート証券のコーポレートアクションのページで確認しました
- 20ユーロの例は、当サイトが仮の数字で計算したものです
- 記載の内容は2026年9月22日時点のものです
- 筆者はポルトガル在住で、インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座から欧州株ETFを中心に保有しています
この記事を書いた人:Kawa
ポルトガル在住30代の兼業投資家です。インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座で、欧州株ETFを中心に保有しています。ヨーロッパには、日本ではあまり知られていなくても、世界中で愛されている会社がたくさんあります。その面白さと、日本からの買い方を、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思って書いています。株価の見通しは、根拠と計算式を示して書きます。確認できていないことはそう書き、誤りがあれば訂正の経緯を記事に残して直します。詳しいプロフィール
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免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載の内容は2026年9月22日に当サイトがEUとドイツの法令、発行会社の発表、証券会社の約款で確認したものにもとづいており、変更される場合があります。本記事は法務・税務のアドバイスではありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。当サイトは本記事の情報に基づく損失について一切の責任を負いません。

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