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この記事の結論
- EUの公開買付け指令は、会社の支配権を得た人に、ほかの株主全員の株を公正な価格で買い取る提案(義務的な公開買付け)を求めています。支配権とみなす割合は各国が決め、ドイツとイギリスは議決権の30%です
- 公正な価格は、買い手が直前の6〜12か月に支払った最も高い値段が基準になります
- 買い手が議決権の90%(国によっては95%まで)を集めると、残りの株主の株を強制的に買い取れます(スクイーズアウト)。ドイツは95%、イギリスは90%です
- 反対に、残った株主の側から買い取りを求める権利(セルアウト)もあります。少数株主が取り残されないための仕組みだと言えます
保有している欧州株の会社が買収されると、株主には「買付けに応じるかどうか」の判断が求められます。応じなかった場合に株がどうなるのかも、気になるところです。
この記事では、EUの公開買付け指令の条文と、ドイツ・イギリスの法令をもとに、買収のときに株主を守る決まりを整理します。個別の買収案件の見通しを述べるものではありません。
EUの共通ルール:公開買付け指令
EUでは、2004年4月21日の公開買付け指令(2004/25/EC)が共通の土台になっています。細かい数字は各国が決めますが、骨組みは次の3つです。
| 仕組み | 指令の内容 |
|---|---|
| 義務的な公開買付け(第5条) | 自分と協力者の保有を合わせて会社の支配権を得た人は、すべての株主に、保有する全部の株を公正な価格で買い取る提案をしなければならない。支配権とみなす議決権の割合は、会社の登記がある加盟国が決める |
| 公正な価格(第5条4項) | 買い手や協力者が、買付けの前の一定期間(加盟国が6か月以上12か月以内で決める)に同じ株に支払った最も高い値段。買付けの発表後にそれより高く買った場合は、提案の値段も引き上げなければならない |
| スクイーズアウトとセルアウト(第15条・第16条) | 全株への買付けのあと、買い手が議決権付き資本と議決権の90%以上を持つ場合などに、残りの株主に公正な価格で売るよう求められる。加盟国はこの基準を95%まで引き上げられる。行使できるのは買付け期間の終わりから3か月以内。同じ条件で、残った株主の側から買い取りを求めることもできる |
義務的な公開買付けのねらいは、指令の条文の見出しにあるとおり、少数株主の保護です。支配権が移るときに、大株主だけが高い値段で売り抜け、ほかの株主が取り残されることを防ぐ仕組みだと言えます。
国ごとの数字:ドイツとイギリス
| 項目 | ドイツ | イギリス |
|---|---|---|
| 支配権とみなす割合 | 議決権の30%以上(有価証券取得・買収法 第29条) | 議決権の30%以上(買収コード 規則9.1) |
| 支配権を得たとき | 遅くとも7営業日以内に公表し、義務的な買付けへ進む(同 第35条) | 買収パネルの同意がない限り、義務的な買付けが必要 |
| スクイーズアウトの基準 | 議決権付き資本の95%以上(同 第39a条。裁判所の決定による) | 買付けの対象となった株の価値と議決権の90%以上(2006年会社法 第979条) |
イギリスはEUを離脱していますが、30%と90%という数字は、EUの指令の枠組みと同じ水準です。イギリスには、30%以上50%以下を持つ人が買い増したときにも義務的な買付けが必要になる、という決まりもあります(規則9.1)。
フランス、オランダ、スイスなど、ほかの国の基準は、当サイトでは条文で確認できていません。スイスはEUの加盟国ではないため、この指令は適用されません。
買収の発表があったときの手続きは、証券会社の案内で確かめることになります。サクソバンク証券での扱いは確認できていませんが、まず取扱銘柄は見ておけます。
欧州株1,800銘柄以上・9取引所に対応。特定口座は使えますが、NISAの対象外です。手数料は取引所ごとに最低額があり、少額の買付では負担率が上がります。
株主から見た流れ
- 買付けの発表。買い手が、値段と期間を示して買付けを発表します
- 応じるかどうかの判断。応じれば、示された値段で株を売ることになります。市場で売ることもできます
- 買付けの成立。買い手が十分な株を集めると、買付けが成立します
- 基準を超えた場合。買い手が90%(ドイツは95%)以上を持つと、応じなかった株主の株も、公正な価格で買い取られることがあります。残った株主の側から、買い取りを求めることもできます
指令は、スクイーズアウトの値段について、買付けと同じ形の対価か現金でなければならないとし、買付けで対象の株の90%以上が集まっていれば、その買付けの値段を公正とみなすと定めています。つまり、応じなかったからといって、買付けより不利な値段で強制的に手放すことにはなりにくい仕組みだと思います。
日本の個人投資家が確かめたいこと
- 証券会社での手続き。買付けに応じる手続きを日本の証券会社の口座からできるのか、期限はいつかは、証券会社によって違います。サクソバンク証券での扱いは、当サイトでは確認できていません。買収の発表があったら、早めに証券会社の案内をご確認ください
- 会社の国。指令は、支配権とみなす割合を、会社の登記がある加盟国のルールで決めるとしています(第5条3項)。上場している取引所の国とは限りません。登記の国と上場の国が違う場合に、手続きをどちらの国の当局が見るのかは、当サイトでは確認できていません。会社の国の見分け方はISINの記事で説明しています
- 株の種類。議決権のない株を持っている場合、扱いが分かれることがあります。ドイツの法律は、買い手が資本の95%を持つ場合に、議決権のない優先株も買い取りの対象にできると定めています。株の種類は株の種類の早見表にまとめています
- 税金。買付けに応じて得たお金や、強制的な買い取りで受け取ったお金の日本での税金の扱いは、当サイトでは確認できていません。税務署や税理士にご確認ください
筆者はIBKRの口座で欧州株ETFを中心に保有しています。ETFの場合、買収への対応は運用会社が行うため、保有者が判断する場面はありません。個別株を持つ場合にだけ必要になる知識ですが、発表から期限までの時間は限られるため、前もって流れを知っておくと落ち着いて対応できると思います。
まとめ
- EUの指令は、支配権を得た人に全株主への公正な価格での買付けを義務づけている。支配権の基準はドイツ・イギリスとも議決権の30%
- 公正な価格の基準は、買い手が直前の6〜12か月に支払った最も高い値段
- 買い手が90%(ドイツは95%)以上を集めると、残りの株も公正な価格で買い取られることがある。株主の側から買い取りを求める権利もある
- 手続きと期限は証券会社の案内で、適用される国は会社の登記地で確かめる
口座を持つ前に、開設の流れも見ておけます。
口座の種類と開設までの日数は当サイトの解説記事にまとめています。NISAは対象外です。
買収のルールを踏まえて欧州株を持つ場合の証券会社の選び方は、欧州株が買えるネット証券を比較した記事で整理しています。
この記事の検証方法
- EUのルールは、EUR-Lexに掲載の指令2004/25/ECの第5条・第15条・第16条を2026年9月19日に当サイトが確認しました
- ドイツは、連邦司法省の法令サイトに掲載の有価証券取得・買収法(WpÜG)第29条・第35条・第39a条で確認しました
- イギリスは、買収パネルの買収コード 規則9.1と、2006年会社法 第979条で確認しました
- あわせて、改正を反映した統合版(2024年1月9日時点)でも、30%・90%・95%という数字と公正な価格の基準が変わっていないことを確かめました
- 「株主から見た流れ」は、上の条文をもとに当サイトが整理したものです。実際の手続きは案件と国によって違います
- 記載の内容は2026年9月19日時点のものです
- 筆者はポルトガル在住で、インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座から欧州株ETFを中心に保有しています
この記事を書いた人:Kawa
ポルトガル在住30代の兼業投資家です。インタラクティブ・ブローカーズ(IBKR)の口座で、欧州株ETFを中心に保有しています。ヨーロッパには、日本ではあまり知られていなくても、世界中で愛されている会社がたくさんあります。その面白さと、日本からの買い方を、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思って書いています。株価の見通しは、根拠と計算式を示して書きます。確認できていないことはそう書き、誤りがあれば訂正の経緯を記事に残して直します。詳しいプロフィール
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免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買や、個別の買付けに応じるかどうかを推奨するものではありません。記載の内容は2026年9月19日に当サイトがEUと各国の法令で確認したものにもとづいており、変更される場合があります。本記事は法務・税務のアドバイスではありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。当サイトは本記事の情報に基づく損失について一切の責任を負いません。

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